「創業時に友人と株を半分ずつ持った」「資金を出してくれた知人に株を少し渡した」「先代の株を親族が相続した」――非上場会社の株主構成は、善意や成り行きで決まっていることが少なくありません。方針の対立や退任、相続が起きた瞬間に、株式は会社の意思決定を止める力に変わります。この記事では、共同創業者や少数株主とのトラブルを防ぐ株主間契約について、会社法が少数株主に与えている権利を確認したうえで、議決権・譲渡制限・デッドロック・退任時の株式買取の設計と、既に株を渡してしまった場合の対処を整理します。
株を分けた後に揉める ― 非上場会社の株主トラブルの典型
株主トラブルは、株を渡した時点ではなく数年後に表面化します。当事務所がよくご相談を受けるのは、次のような場面です。
- 50対50の共同創業:方針が割れると取締役の選任も決算の承認も決められない。
- 辞めた共同創業者が株を持ち続ける:競合に移った人が株主として残り、帳簿の閲覧や総会への出席を求めてくる。
- 出資者への「お礼」の株式:知人に3分の1超を渡した結果、定款変更や増資のたびに同意が必要になる。
- 相続による分散:先代の株が配偶者と子に分かれ、経営に関与しない親族が議決権を持つ。
いずれも、株主の間に「何が起きたら誰がどうするか」の取決めがなかったことが原因です。会社法が定める株主の権利をどう使うかは、当事者の合意、すなわち株主間契約と定款で決めておく必要があります。
会社法が少数株主に与えている権利 ― 持株比率別の一覧
「少数株主だから何もできない」というのは誤解です。会社法は1株の株主にも相当の権利を与えています。全株式に譲渡制限を付けた非公開会社(会社法2条5号)では6か月の継続保有要件が外れ、株を取得した直後から行使できる権利が多い点にも注意が必要です。
| 持株比率(議決権) | 行使できる権利 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 1株 | 議決権、計算書類・株主総会議事録の閲覧、取締役会議事録の閲覧(監査役設置会社は裁判所の許可)、取締役の違法行為の差止請求、株主代表訴訟の提訴請求 | 105条・442条3項・318条4項・371条2項・3項・360条・847条 |
| 1%以上または300個以上(取締役会設置会社) | 株主総会の議題提案権(総会日の8週間前まで)。取締役会非設置会社では1株でも可能 | 303条 |
| 3%以上 | 株主総会の招集請求、会計帳簿の閲覧謄写請求、役員解任の訴え(解任議案が否決された総会の日から30日以内) | 297条・433条・854条 |
| 10%以上 | やむを得ない事由があるときの会社解散の訴え | 833条 |
| 3分の1超 | 特別決議(定款変更、特定株主からの自己株式取得など)を単独で否決できる | 309条2項 |
| 過半数 | 普通決議。取締役・監査役の選任と解任、役員報酬、計算書類の承認 | 309条1項・341条 |
| 3分の2以上 | 特別決議を単独で成立させられる | 309条2項 |
特に意識すべきなのは3%と3分の1です。3%の株主は理由を示して会計帳簿の閲覧・謄写を請求でき(433条1項)、会社は競業関係にあるなど同条2項の拒絶事由がなければ拒めません。総会の招集請求に会社が応じなければ、裁判所の許可を得て自ら招集することもできます(297条4項)。
株を渡すときは「何%渡すか」だけでなく「その比率で会社法上どの権利が生まれるか」を確認してください。3%で帳簿閲覧と総会招集、3分の1超で特別決議の拒否権が生じます。
定款と株主間契約の違い ― どちらに何を書くか
株主間の取決めを置く場所は定款と株主間契約の二つがあり、性質が異なるため使い分けが必要です。
| 項目 | 定款 | 株主間契約 |
|---|---|---|
| 誰を拘束するか | 会社と全株主(将来の株主も含む) | 署名した当事者のみ |
| 違反した場合 | 定款違反の決議は取消し・無効の対象になり得る | 契約違反として損害賠償・違約金・株式買取など約定した制裁。株主総会決議の効力自体には原則影響しない |
| 変更の要件 | 株主総会の特別決議(466条・309条2項11号)。属人的な定めは総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上(309条4項) | 当事者全員の合意(契約で別に定めることも可能) |
| 公開性 | 株主・債権者が閲覧でき、登記事項を含む | 非公開にできる |
| 書けること | 譲渡制限(107条1項1号)、種類株式(108条)、属人的定め(109条2項)、相続人への売渡請求(174条)など会社法が許容する範囲 | 議決権行使の約束、取締役の指名権、デッドロック解消手続、退任時の買取価格、競業避止など自由に設計できる |
実務では、会社法上の効力を持たせたい事項(譲渡制限、種類株式、売渡請求)は定款に置き、当事者の行動を細かく約束する事項(取締役の指名、議決権の行使方法、買取価格、退任時の扱い)は株主間契約に置く組合せが基本です。株主間契約だけだと、違反されても「決議は有効、損害賠償は請求できる」という弱い救済にとどまりかねません。
株主間契約の条項① 議決権・経営体制・デッドロックの解消
共同創業者間の株主間契約で最も重要なのは、意思決定が止まらない仕組みです。取締役の選任・解任は普通決議(341条)、定款変更や組織再編は特別決議(309条2項)ですから、50対50や3分の1超の株主がいる会社では、法律の初期設定のままでは決められない事項が生じます。
議決権と経営体制に関する条項
- 取締役の指名権:各株主が指名できる取締役の人数を定め、他の株主はその候補者に賛成する義務を負う。代表取締役も明記する。
- 重要事項の事前同意:増資、借入の上限、新規事業、役員報酬の変更など一定の事項は少数株主の事前同意を要する。限定列挙すれば、それ以外は多数株主の判断で進められることも明確になる。
- 情報提供:月次試算表や決算書を期日までに全株主へ共有する。共有されていれば帳簿閲覧請求(433条)を使う場面自体が減る。
- 競業避止:取締役の競業取引は株主総会の承認が必要(356条1項1号)だが、退任後や株主としての立場には会社法の規律が及ばないため、契約で補う。
デッドロック(意思決定の行き詰まり)の解消手順
対立が固定化した場合の会社法上の最終手段は解散の訴え(833条)ですが、10%以上の株式と「やむを得ない事由」が必要で、会社を終わらせる結論にしかなりません。株主間契約では、その前の段階を定めておきます。
| 段階 | 内容 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| 第1段階:協議 | 一定期間(例:30日)内に株主同士で協議する | デッドロックと「みなす」条件(同一議案が2回続けて否決された等)を明確にする |
| 第2段階:第三者の関与 | 顧問弁護士・税理士など中立の第三者を交えて調整する | 第三者の選び方と費用負担を事前に決める |
| 第3段階:買取オプション | 一方が価格を提示し、他方は「その価格で買う」か「売る」かを選ぶ | 提示者が不当に安い価格を出せない仕組み。資金力に差があれば分割払いも用意する |
| 第4段階:最終手段 | 第三者への会社売却、または解散・清算に合意する | 解散の訴えに頼らず合意で出口を決める |
比率を51対49にすれば普通決議の行き詰まりは避けられますが、特別決議は49%側が否決できます。比率と契約条項の両方で設計することが重要です。
株主間契約の条項② 譲渡制限・退任時の株式買取・相続
会社法の譲渡制限だけでは足りない理由
株式は原則として自由に譲渡できます(127条)。多くの中小企業は定款で「株式の譲渡には会社の承認を要する」と定めています(107条1項1号・139条1項)。承認しない場合、会社は自ら買い取るか指定買取人を指定しなければならず(140条)、売買価格は協議で決まらなければ通知から20日以内に裁判所へ決定を申し立てます(144条2項)。申立てがなければ1株当たり純資産額に株数を乗じた額が売買価格です(144条5項)。
つまり定款の譲渡制限は「知らない第三者に株が流れることを防ぐ」制度であって、「辞めた株主に株を手放させる」制度ではありません。だからこそ株主間契約で退任時の扱いを決めておく必要があります。
退任時の株式買取条項
- 発動事由:取締役の退任、従業員としての退職、死亡、長期の業務不能、契約違反などを列挙する。
- 買取人:他の株主、会社が指定する第三者、または会社自身。会社が自己株式として取得する場合は特定の株主からの取得として特別決議が必要で(160条・309条2項2号)、対価が分配可能額の範囲内に限られる財源規制(461条)もかかります。利益の蓄積が薄い会社では他の株主が買い取る設計の方が確実です。
- 買取価格:円満な退任は時価や純資産に基づく価格、契約違反や競業による退任は取得価額や純資産の一定割合など、理由に応じて変える。算式を契約時に決めておく。
- 支払条件:一括か分割か、分割なら期間と利息。買う側の資金繰りに配慮しなければ機能しません。
このほか、他の株主が同条件で優先的に買える先買権、会社全体の売却時に少数株主にも売却を義務付ける強制売却権(少数株主が応じないとM&Aが成立しない事態を防ぐ)も典型条項です。
相続への備え
株主が死亡すると株式は相続人に承継され、譲渡制限は相続には働きません。定款に、相続その他の一般承継で株式を取得した者に会社が売渡しを請求できる旨を定めておけば(174条)、特別決議を経て相続人から買い取れます(175条・309条2項3号、財源規制は461条1項5号)。あわせて株主間契約で相続時に他の株主が買い取る旨を定め、経営者本人は遺言で後継者に株式を集中させておくのが現実的です。
定款の譲渡制限は「外に出さない」制度で、「辞めた人から取り戻す」効果はありません。退任時の買取(発動事由・買取人・価格算式・支払条件)と相続時の売渡請求(174条)を、株を渡す前に決めておきます。
既に株を渡してしまった場合 ― 後からできること
株主間契約がないまま株を渡してしまった会社でも、関係が良好な今なら手を打てます。
- 現状の確認:株主名簿、定款、過去の株主総会議事録で、誰が何%を持ち、譲渡制限・売渡請求の定めがあるか、過去の譲渡が適法に承認されているかを把握します。
- 株主間契約の後付け:全株主が合意すれば今からでも作れます。「お互いに辞めるときの扱いを決めておきましょう」と、相手にも利益がある内容で提案するのが現実的です。
- 定款の整備:譲渡制限や売渡請求の定めがなければ追加します。全株式に譲渡制限を付ける定款変更は、議決権を行使できる株主の半数以上かつ議決権の3分の2以上が要件です(309条3項1号)。
- 株式の買い集め:経営に関与しない株主から、経営者や後継者が任意の売買で買い取ります。価格は第三者の株価評価を基礎に協議します。
- 種類株式・属人的定めの活用:全株主の協力が得られれば、議決権のない配当優先株式(108条1項1号・3号)への転換や、取締役選任権付種類株式(同項9号、非公開会社のみ)、株主ごとに議決権を異ならせる属人的定め(109条2項・決議要件は309条4項)で経営権を安定させる方法もあります。
関係が悪化した後では、これらの手段のほとんどが使えません。株主間契約を結ぶ最良の時期は創業時、次は「今」です。
よくある質問(FAQ)
共同創業者と株式を50対50で持っています。今からでも株主間契約を結ぶべきですか。
少数株主から会計帳簿の閲覧を求められました。拒否できますか。
辞めた共同創業者が株を持ち続けています。強制的に買い取れますか。
株主間契約に違反して議決権が行使された場合、その決議は無効になりますか。
出資してくれた知人に何%まで株を渡しても経営権に影響しませんか。
まとめ
- 株主トラブルは株を渡した数年後に表面化し、50対50の共同創業、退任者の株式保有、出資者への株式付与、相続による分散が典型です。
- 3%で帳簿閲覧・総会招集、3分の1超で特別決議の拒否権が生じます。非公開会社では6か月の保有要件も外れます。
- 会社法上の効力が必要な事項は定款(譲渡制限・種類株式・売渡請求)に、当事者の行動の約束は株主間契約(指名権・事前同意・デッドロック解消・退任時の買取)に置きます。
- 定款の譲渡制限は「外に出さない」制度で、退任者から株を取り戻す効果はありません。退任時の買取条項と価格算式、相続時の売渡請求を事前に決めておきます。
- 株主間契約がない会社も、関係が良好な今なら後付けの契約締結・定款整備・株式の買い集めが可能です。
当事務所では、創業期の株主間契約の起案から、定款・種類株式の設計、分散した株式の整理、少数株主からの請求への対応まで、会社の状況に合わせてご支援しています。詳しくは 顧問弁護士サービス をご覧いただくか、お問い合わせ(無料相談) からお気軽にご相談ください。チャット・オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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