「定款は設立のときに作ってもらったまま、一度も開いていない」――経営者からよく伺う言葉です。設立時の定款は、株主も取締役も創業者1人という当時の姿に合わせて作られており、役員や株主が増え、新しい事業を始めるころには実態とずれ、融資・許認可・株式の承継・登記の場面で不都合が表に出ます。この記事では、定款の見直しポイントとして事業目的・株式譲渡制限・機関設計・役員任期の4点を整理し、定款変更の手続と登記、費用の目安を解説します。
設立時のままの定款で何が起きるか
定款は会社の根本規則です。会社法27条が定める目的・商号・本店の所在地などの必須事項のほか、株式の譲渡制限、機関の設置、役員の任期、株主総会の運営ルールなど、会社の動かし方の多くを決めています。会社法は「定款で別段の定めができる」事項を多く置いており、定款に書いていなければ法律の初期設定がそのまま適用されます。
実態とずれた定款の不都合は、「新事業が目的欄にない」「株主が増えたのに譲渡制限や相続時のルールが整っていない」「頭数を維持するための名義だけの役員が残っている」「任期10年の満了を忘れて登記を放置した」といった形で表に出ます。定款は本店に備え置く義務があり、株主や債権者はいつでも閲覧を請求できます(会社法31条)。融資やM&Aの場面で最初に提出を求められる書類でもあります。
定款は会社法の初期設定を自社向けに書き換える道具です。株主構成・役員構成・事業内容のどれかが設立時から変わっていれば、見直しの時期が来ています。
事業目的 ― 新規事業・許認可・融資で引っかかる
事業目的は定款の必須記載事項(会社法27条1号)であり、登記事項でもあります(同法911条3項1号)。目的欄が問題になるのは次の3場面です。
- 許認可の申請:建設業、人材紹介業、古物営業などの申請で、登記事項証明書の目的欄にその事業が読み取れるかを確認されることがあります。入っていなければ先に目的変更の登記が必要になり、開業が後ろにずれます。
- 融資審査:資金使途となる事業が目的欄に見当たらないと、目的変更を融資の条件とされることがあります。
- 与信調査・補助金申請:目的欄と事業内容の整合を見られることがあります。
目的欄の書き方の考え方
- 2〜3年以内に始める可能性がある事業まで具体的に書く
- 許認可事業は根拠法の業種名に合わせる(例:「有料職業紹介事業」「古物営業法に基づく古物商」)
- 末尾に「前各号に附帯関連する一切の事業」を置く
一方で、何十項目も並べると、実態と無縁の業種(貸金業など)が与信調査で疑問を招くことがあります。全く縁のない業種は外すのが現実的です。
株式譲渡制限 ― 非公開会社の「守り」の中核
株式譲渡制限とは、株式を譲渡によって取得するには会社の承認を要する、という定款の定めです(会社法107条1項1号・2項1号)。発行する全部の株式にこの定めがある会社が「非公開会社」で、上場の有無ではなく定款の定めで決まります(同法2条5号)。
中小企業のほとんどは設立時から譲渡制限を付けていますが、「付いているだけ」で中身を点検していない会社が多くあります。
1. 承認機関は実態に合っているか
譲渡の承認は、原則として株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議で行いますが、定款で別の定めができます(会社法139条1項)。取締役会を廃止したのに「取締役会の承認」の文言が残っているような場合は、条文どおりに手続が進みません。代表取締役の承認とする、株主間の譲渡は承認したものとみなす(同法107条2項1号ロ)など、規模に合った設計を検討します。
2. 承認しなかったときの買取りの備えはあるか
譲渡承認請求(会社法136条)に対して会社が承認しない決定をした場合、株主が買取りを求めていれば、会社または会社が指定する買取人がその株式を買い取らなければなりません(同法140条1項・4項)。「承認しなければ終わり」ではなく、買い取る資金と買取人の目途が必要です。
3. 相続で株式が移った場合の定めはあるか
譲渡制限は「譲渡」に対する制限で、相続などの一般承継には及ばず、株主が亡くなると相続人が自動的に株主になります。これに備えて、会社法174条は、相続等で譲渡制限株式を取得した者に会社への売渡しを請求できる旨を定款で定めることを認めています。創業者以外に株式を持たせている会社では、この定めの有無で事業承継の難しさが変わります。
譲渡制限は「あるかないか」ではなく、承認機関・不承認時の買取り・相続時の売渡請求の3点が揃って初めて機能します。株主が2人以上いる会社は、株主間契約とセットで点検してください。
機関設計 ― 取締役会・監査役は本当に必要か
株式会社に必ず置かなければならない機関は、株主総会と1人以上の取締役だけです(会社法326条1項)。取締役会や監査役は定款の定めによって置くものです(同条2項)。ただし、公開会社は取締役会が必須で(同法327条1項1号)、取締役会を置くと原則として監査役が必要になり(同条2項)、取締役は3人以上必要です(同法331条5項)。
| 項目 | 取締役会を置かない会社 | 取締役会設置会社 |
|---|---|---|
| 取締役の人数 | 1人以上(326条1項) | 3人以上(331条5項) |
| 監査役 | 任意 | 原則必要(327条2項) |
| 業務の決定 | 取締役の過半数で決定(348条2項) | 取締役会で決定。重要な財産の処分や多額の借財は取締役に委任できない(362条4項) |
| 代表取締役の選び方 | 定款・定款に基づく取締役の互選・株主総会決議(349条3項)。定めがなければ各取締役が代表 | 取締役会で選定(362条3項) |
| 株主総会の権限 | 会社に関する一切の事項(295条1項) | 法律と定款で定めた事項に限る(295条2項) |
| 向いている会社 | 株主=経営者、役員1〜2人の会社 | 外部取締役を迎える会社、上場準備会社 |
名義だけの役員で頭数を維持している会社
信用のために取締役会と監査役を置き、頭数を維持するために配偶者や親族を名義だけの役員にしている会社は少なくありません。名義だけの役員も法律上は善管注意義務や監査の責任を負います。実質的に経営者1〜2人で意思決定しているなら、取締役会と監査役を廃止する選択肢があります。監査役を置く旨の定めを廃止すると、その時点で監査役の任期は満了します(会社法336条4項1号)。
監査役を置くなら「会計限定」
非公開会社(監査役会設置会社・会計監査人設置会社を除く)は、監査役の監査範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができ(会社法389条1項)、この定めは登記事項です(同法911条3項17号イ)。あわせて、取締役会非設置会社では代表取締役を取締役の互選で定める規定(同法349条3項)、取締役会設置会社では取締役会の書面決議を認める規定(同法370条)を定款に置いておくと運営が軽くなります。
役員任期 ― 2年か10年か、任期切れと登記の放置
取締役の任期は、初期設定では選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までで、非公開会社は定款で選任後10年以内まで伸長できます(会社法332条1項・2項)。監査役は初期設定が4年で、非公開会社では同じく10年まで伸長できます(同法336条1項・2項)。
任期を10年にすると2年ごとの重任登記の手間と費用を省けますが、次のデメリットがあります。
- 任期満了を忘れる:登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更登記をしなければならず(会社法915条1項)、怠ると取締役等が100万円以下の過料の対象になります(同法976条1号)。さらに、最後の登記から12年が経過すると休眠会社として解散したものとみなされるおそれがあります(同法472条1項)。
- 途中で辞めてもらいにくい:任期途中の解任は株主総会決議でできますが、正当な理由がなければ損害賠償を求められるおそれがあります(会社法339条)。任期が長いほど、任期満了で円満に退任してもらう機会が遠くなります。
- 定款変更で任期が突然終わる:譲渡制限の定めを廃止すると、取締役・監査役の任期はその時点で満了します(会社法332条7項3号・336条4項4号)。
株主=経営者で役員が家族だけなら10年、外部の役員を入れている会社や上場準備に入る会社なら2年以下、という使い分けが実務的です。
任期の長短は「登記の手間」と「役員を入れ替える自由度」のトレードオフです。10年にするなら、任期満了日を仕組みで管理しないと過料やみなし解散のリスクを抱えます。
定款変更の手続と登記の流れ・費用
定款の変更は株主総会の決議で行います(会社法466条)。この決議は特別決議で、議決権の過半数(定款で3分の1以上に緩和可)を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(同法309条2項11号)。全株主が書面または電磁的記録で同意すれば、総会を開かずに決議できます(同法319条1項)。譲渡制限を新たに設ける定款変更だけは、株主の頭数の半数以上かつ議決権の3分の2以上という「特殊決議」が必要です(同法309条3項1号)。
決議が成立すれば定款変更はその時点で効力を生じ、公証人の認証は不要です。変更した事項が登記事項であれば、2週間以内に変更登記を申請します(会社法915条1項)。
| 変更する事項 | 決議 | 登記の要否 | 登録免許税(申請1件) |
|---|---|---|---|
| 事業目的の変更 | 特別決議 | 必要(911条3項1号) | 3万円 |
| 譲渡制限の新設・承認機関の変更 | 新設は特殊決議、変更は特別決議 | 必要(911条3項7号) | 3万円 |
| 取締役会・監査役の設置または廃止 | 特別決議 | 必要(911条3項15号・17号)。役員の就任・退任登記を伴うことが多い | 3万円。役員変更分は資本金1億円以下の会社で1万円 |
| 役員任期の伸長・短縮 | 特別決議 | 任期自体は登記事項ではない | 役員変更:3万円(資本金1億円以下は1万円) |
| 書面決議など運営ルール | 特別決議 | 不要 | ― |
登録免許税の金額は登録免許税法別表第一24号(一)によるもので、役員に関する事項の変更は申請1件につき3万円(資本金1億円以下の会社は1万円)、目的や株式の内容などその他の登記事項の変更は申請1件につき3万円です。見直し項目をまとめて1回で申請すれば司法書士報酬や手間を抑えられます。申請書の様式と記載例は法務局の「商業・法人登記の申請書様式」ページにあり、目的の変更(様式1-12)、譲渡制限の規定の変更や取締役会・監査役の設置廃止(様式1-19)などが用意されています。
見直しの進め方
- 定款原本と登記事項証明書を並べ、食い違いを確認する
- 株主・役員・事業の「今」と「3年後」を書き出し、項目ごとに残す/変える/加えるを決める
- 株主総会(または書面決議)で決議し、議事録を作る
- 登記事項の変更は2週間以内に申請し、変更後の現行定款を1通に整えて本店に備え置く
よくある質問(FAQ)
定款を変更したら、公証人の認証を受け直す必要がありますか?
定款に書いていない事業を始めると、その取引は無効になりますか?
株式に譲渡制限が付いていれば、株主が亡くなっても相続人に株式は渡りませんか?
取締役会と監査役を廃止すると、会社の信用は下がりますか?
役員の任期を10年にしたまま任期満了を忘れていました。どうすればよいですか?
定款変更にかかる費用はどのくらいですか?
まとめ
- 定款は会社法の初期設定を自社向けに書き換える道具で、株主・役員・事業のどれかが変わっていれば見直しの時期です。
- 事業目的は許認可・融資・与信の場面で目的欄との整合を問われます。2〜3年先の事業まで入れ、無縁の業種は外します。
- 株式譲渡制限は、承認機関・不承認時の買取り・相続時の売渡請求(会社法174条)の3点が揃って機能します。
- 取締役会・監査役は必須ではありません(会社法326条)。名義だけの役員がいるなら、廃止や監査役の会計限定(389条)を検討します。
- 定款変更は株主総会の特別決議(466条・309条2項)、登記事項は2週間以内の変更登記(915条)が必要で、登録免許税は申請1件3万円(役員変更は資本金1億円以下で1万円)です。
定款の見直しは、株主間契約・事業承継・融資・許認可の計画と一緒に考えることで効果が出ます。当事務所の顧問弁護士サービスでは、定款と登記事項の点検から株主総会の議事録作成、司法書士資格を持つ弁護士と連携した登記までを日常の相談の中で進められます。設立時のままの定款に心当たりがある方は、お問い合わせ(無料相談)から現在の定款と登記事項証明書をお送りください。チャット・オンラインで全国対応しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
