「うちは下請けを使う側だが、資本金が小さいから下請法は関係ない」――そう考えてきた経営者は少なくありません。しかし2024年11月1日にフリーランス法が施行され、2026年1月1日には下請法が取適法(中小受託取引適正化法)へ改正・改称されて、従業員数を基準に規制される発注者が広がりました。外注先に個人事業主や小規模な会社がいれば、貴社は「規制される側」かもしれません。この記事では、発注側の企業の視点から、2つの法律の適用範囲、義務と禁止行為、違反時の措置、実務対応を条文に沿って整理します。
取適法とフリーランス法の関係 ― 貴社はどちらの「発注者」か
取適法の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号)です。「下請法」が令和7年の改正で名称を変え、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」と改められました。施行日は2026年1月1日です。
フリーランス法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)で、2024年11月1日に施行されました。保護されるのは、従業員を使用しない個人事業主と、代表者1人だけで従業員のいない法人(特定受託事業者)です(法2条1項)。
| 比較項目 | 取適法(改正下請法) | フリーランス法 |
|---|---|---|
| 施行日 | 2026年1月1日(改正法) | 2024年11月1日 |
| 規制される発注者 | 資本金または従業員数が一定規模を超える法人(委託事業者) | 従業員を使用する個人・法人(特定業務委託事業者)。取引条件の明示義務は従業員のいない発注者にも適用 |
| 保護される受託者 | 資本金・従業員数が一定以下の事業者(中小受託事業者) | 従業員を使用しない個人事業主、代表者以外に役員・従業員のいない法人 |
| 対象取引 | 製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託(法2条) | 物品の製造・情報成果物の作成・役務提供の委託全般(法2条3項) |
外注先ごとに「相手は従業員を使っているか」「自社と相手の資本金・従業員数はいくらか」を確認すると、適用される法律が決まります。相手が一人で働くフリーランスなら両法が重なって適用されることがあり、資本金の小さな会社でもフリーランス法の発注者義務を負います。
取適法(2026年1月施行)の適用範囲 ― 従業員基準が加わった
旧下請法は資本金だけで適用を判断していたため、資本金を小さく抑えた大規模な会社が規制の外に出る問題がありました。改正後は、資本金基準に加えて「常時使用する従業員の数」による基準が設けられています(法2条8項5号・6号)。取引の種類で2つの区分があり、プログラム作成、運送、倉庫保管、情報処理は政令により製造委託と同じ区分です。
| 取引の種類 | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託・プログラム作成・運送・倉庫保管・情報処理の委託 | 資本金3億円超の法人 | 個人または資本金3億円以下の法人 |
| 資本金1,000万円超3億円以下の法人 | 個人または資本金1,000万円以下の法人 | |
| 従業員300人超の法人 | 従業員300人以下の個人・法人 | |
| 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託(デザイン、映像、コンサルティング、清掃、保守など) | 資本金5,000万円超の法人 | 個人または資本金5,000万円以下の法人 |
| 資本金1,000万円超5,000万円以下の法人 | 個人または資本金1,000万円以下の法人 | |
| 従業員100人超の法人 | 従業員100人以下の個人・法人 |
表のとおり、資本金1,000万円以下で従業員も100人以下の会社は、委託事業者には該当しません。一方、資本金1,000万円を超える法人は、資本金1,000万円以下の法人や個人事業主に発注すれば委託事業者になります。「資本金2,000万円の会社が個人のデザイナーにロゴ制作を頼む」といった日常的な取引も対象です。従業員が100人を超えれば資本金1,000万円以下でも委託事業者になる点が、改正の大きな変更です。自社が販売・製造・修理する物品を取引先に届ける運送を委託する「特定運送委託」も対象に加わりました(法2条5項)。
取適法で委託事業者に課される義務と禁止行為
委託事業者に該当すると、次の4つの義務を負います。
- 発注内容の明示(法4条):発注したら直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを書面または電磁的方法(メール等)で明示します。受託側が書面を求めたときは遅滞なく交付します。口頭だけの発注は認められません。
- 支払期日の設定(法3条):検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日の期間内で、できる限り短い期間内に定めます。
- 書類の作成・保存(法7条):給付、受領、代金の支払などを記載した書類または電磁的記録を作成し、保存します。
- 遅延利息の支払い(法6条):支払期日に遅れたときは、受領日から60日を経過した日から支払日までの期間について、公正取引委員会規則で定める率による遅延利息を支払います。
11の禁止行為 ― 手形払いと「協議に応じない代金決定」の禁止が新設
法5条1項は、受領拒否、支払遅延、代金の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置の7つを禁じ、2項は、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定の4つで中小受託事業者の利益を不当に害することを禁じています。
改正で特に注意したいのは2点です。第一に、支払遅延の禁止(5条1項2号)に、手形の交付と、支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難な支払手段の使用が明記されました。手形払いや、満期まで現金化できない電子記録債権での支払いは違反となります。第二に、費用の変動が生じた場面で、中小受託事業者が代金の協議を求めたのに応じない、または必要な説明や情報提供をせずに一方的に代金を決めることが禁止されました(5条2項4号)。「値上げの話は聞かない」という対応が違反になり得ます。
取適法の義務は、受託側が納得していても免除されません。発注書を出さない、支払期日が受領日から60日を超える、手形で払う、価格協議を断る――この4つは、関係が良好でも違反と評価され得る典型例です。
フリーランス法(2024年11月施行)で発注者に課される義務
フリーランス法は、発注者の規模ではなく「従業員を使用しているか」で義務の範囲が決まります。従業員を1人でも雇っている個人・法人は「特定業務委託事業者」として(法2条6項)、以下の義務をすべて負います。公正取引委員会の特設サイトによれば、禁止行為は1か月以上、育児介護等への配慮と中途解除の予告は6か月以上の業務委託が対象です。
| 義務 | 条文 | 適用される発注者・取引 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 取引条件の明示 | 3条 | すべての発注者 | 発注後直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示。口頭のみは不可 |
| 報酬の支払期日 | 4条 | 従業員を使用する発注者 | 受領日から起算して60日以内で、できる限り短い期間内に定める。再委託では元委託の支払期日から30日以内 |
| 禁止行為 | 5条 | 従業員を使用する発注者、1か月以上の業務委託 | 受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し |
| 募集情報の的確表示 | 12条 | 従業員を使用する発注者 | 募集情報に虚偽・誤解を生じさせる表示をせず、正確かつ最新に保つ |
| 育児介護等への配慮 | 13条 | 従業員を使用する発注者、6か月以上は義務・未満は努力義務 | 妊娠、出産、育児、介護と両立できるよう申出に応じて配慮する |
| ハラスメント対策 | 14条 | 従業員を使用する発注者 | 相談対応の体制整備等の措置を講じ、相談を理由に不利益な取扱いをしない |
| 中途解除等の予告 | 16条 | 従業員を使用する発注者、6か月以上の業務委託 | 解除・不更新は少なくとも30日前までに予告し、理由を請求されたら遅滞なく開示 |
見落としやすいのは、13条・14条・16条が「就業環境」の規律であることです。社員向けのハラスメント相談窓口は、業務委託先からの相談も受け付ける運用に広げる必要があります。また、長く依頼してきたフリーランスとの契約を突然打ち切る行為は、16条違反となるだけでなく、働き方の実態によっては労働者性の問題にも発展します(「社員を雇うのは不安だから業務委託で」が危険な理由 参照)。
違反したときに何が起きるか ― 勧告・命令・公表・罰金
いずれの法律も、違反に対する中心的な手段は行政による調査と勧告です。公正取引委員会等には報告徴収・立入検査の権限があり、報告拒否や虚偽報告、検査拒否には50万円以下の罰金が定められています(取適法15条、フリーランス法24条2号)。
- 取適法:5条の禁止行為に違反すると、受領・支払・代金引上げ等の措置を勧告されます(10条)。発注内容の明示義務違反と書類の作成・保存義務違反は50万円以下の罰金で、法人にも科されます(14条・16条)。
- フリーランス法:公正取引委員会(8条)・厚生労働大臣(18条)が是正を勧告し、正当な理由なく従わないときは命令し、公表できます(9条・19条)。命令違反は50万円以下の罰金です(24条・25条)。
罰金額は小さく見えますが、実務上の影響は、勧告や命令が公表されて取引先・金融機関・採用市場に「外注先を不当に扱う会社」という評価が広がる点にあります。公正取引委員会の特設サイトには、勧告事例が社名とともに掲載されています。減額や支払遅延は、減じた額や遅延利息の支払いを求められ、浮かせた分を上回る負担になります。
発注側の企業が今すぐ行う5つの実務対応
当事務所は発注側の企業に、次の順番での点検を勧めています。
- 1. 外注先の棚卸し:外注先ごとに、個人か法人か、従業員の有無、資本金・従業員数、取引の種類、継続期間を一覧にし、適用法を判定します。
- 2. 発注書・発注メールのひな型整備:給付の内容、代金(報酬)の額、支払期日、支払方法を記載する様式を作ります。「別途協議」のまま納品させる運用はやめ、内容が定まらない正当な理由があるときは、定まった後直ちに明示します。
- 3. 支払条件の見直し:受領日から60日以内の支払期日か、手形等を使っていないかを確認します。「月末締め翌々月末払い」は60日を超える月があるため、締め日と支払日を再計算してください。
- 4. 価格協議と変更のルール化:値上げの申し出に協議で応じ、説明・情報提供を行い、結果を記録する手順を決めます。発注後の仕様変更ややり直しは、追加費用の負担を協議して書面に残します。
- 5. 就業環境対応と解除手続の整備:ハラスメント相談窓口の対象に業務委託先を加え、6か月以上の継続委託を終了するときは30日前までに書面・メール等で予告する手順を定めます。
両法の義務は「書面で明示する」「60日以内に払う」「一方的に減額・変更しない」「協議に応じる」「終わらせるときは予告する」に集約できます。発注書のひな型、支払サイト、社内手順の3点を直せば対応の大部分は終わります。
よくある質問(FAQ)
資本金1,000万円以下の会社でも取適法は適用されますか?
発注者が従業員のいない個人事業主の場合もフリーランス法は適用されますか?
検収に時間がかかる場合、支払期日は検収完了日から60日で計算できますか?
外注先から値上げを求められたら、応じなければならないのですか?
長年依頼しているフリーランスとの契約を終了したいときは何が必要ですか?
まとめ
- 取適法(改正下請法)は2026年1月1日施行。資本金基準に従業員基準(300人・100人)が加わり、特定運送委託が対象に追加された。
- フリーランス法は2024年11月1日施行。従業員を1人でも使用する発注者は、資本金を問わず明示・60日払い・禁止行為・就業環境の義務を負う。
- 取適法では手形払いと、協議に応じない一方的な代金決定が禁止行為に明記された。
- 違反への措置は勧告・命令・公表と50万円以下の罰金。公表による信用への影響が大きい。
- 対応の要は、外注先の棚卸し、発注書ひな型、支払サイトの再計算、価格協議の手順、解除予告のルール化。
取引条件の見直しは、発注書のひな型を一度整えれば、その後は日々の運用に乗せるだけで済みます。どの外注先にどの法律が適用されるのか、支払サイトや価格交渉の進め方に問題がないかを確認したい経営者の方は、当事務所の 顧問弁護士サービス をご検討ください。個別の取引や発注書について相談したい場合は、お問い合わせ(無料相談) からお気軽にご連絡ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
