ホーム分野別記事一覧顧問弁護士サービス弁護士紹介YouTubeメルマガお問い合わせ
メルマガ登録(無料) 無料相談・お問い合わせ 電話 03-6824-4639(平日10:30–17:00)
会社法・ガバナンス

役員報酬の決め方と取締役が個人で責任を負う場面 ― 株主総会決議・定期同額給与・善管注意義務・会社法423条・429条

「役員報酬は社長が決めて税理士に伝えれば終わり」「会社の借金を保証していなければ取締役個人の責任はない」――経営者から、当事務所はこうした理解をよく伺います。けれども会社法は、役員報酬を株主総会の決議にかからせ、任務を怠った取締役は会社や取引先に個人で損害賠償責任を負うと定めています。この記事では、役員報酬の決め方(会社法361条の株主総会決議と定期同額給与)、善管注意義務・忠実義務、会社法423条・429条で個人責任が問われる場面と経営判断原則、責任を避ける実務を整理します。

役員報酬は社長が一人で決められない ― 会社法361条の仕組み

株式会社の取締役の報酬は、会社法361条1項により、定款に定めがないときは株主総会の決議で定めなければなりません。対象は月々の報酬だけでなく、賞与、退職慰労金、社宅の提供など「職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」を広く含みます。

実務では、取締役全員の報酬の「総額の上限」を株主総会で定め、各人への配分は取締役会または代表取締役に委ねる方法が広く用いられています。また、報酬議案を提出した取締役は総会でその額を「相当とする理由」を説明しなければならず(361条4項)、議事録に残しておくと後に「高すぎる」と争われたときの備えになります。

段階すること残す書面
定款の確認報酬に関する定款の定めの有無を確認する現行の定款
株主総会報酬総額の上限(または各人の額)を決議し、提案した取締役が理由を説明する株主総会議事録(株主全員の同意があれば書面決議も可)
配分の決定総額の枠内で各取締役の額を取締役会または代表取締役が決める取締役会議事録または決定書
税務の確認改定時期・支給方法が法人税法34条の要件を満たすか確認する事前確定届出給与の届出書(該当する場合)

いったん定まった報酬は会社と取締役の間の契約内容になり、最高裁平成4年12月18日判決は、株主総会で定めた報酬を本人の同意なく一方的に減額することはできないとしています。解任自体は株主総会の決議でいつでも可能ですが(339条1項)、正当な理由がなければ残任期分の報酬を中心とする損害賠償を請求されるため(同条2項)、任期を10年まで伸ばしている非公開会社(332条2項)は特に注意が必要です。

ポイント

役員報酬は定款か株主総会決議で決めるのが会社法の原則です。総額の上限を株主総会で決め、配分を取締役会や代表取締役に委ねる方法が一般的で、議事録を残すことが後の紛争と税務調査の両方に効きます。

税務の壁 ― 定期同額給与と改定できる時期

会社法の手続を整えても、税務の要件を外すと役員報酬が法人税の計算上「損金」になりません。法人税法34条1項は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも当たらない役員給与を損金に算入しないと定めています。業績連動給与は有価証券報告書等での開示が要件で非上場会社では使いにくいため、中小企業で使うのは前の二つです。

類型内容中小企業での使い方
定期同額給与支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の額が同額の給与(34条1項1号)毎月の役員報酬の基本形。年度途中で額を変えると差額が損金不算入になるおそれ
事前確定届出給与所定の時期に確定額を支給する旨を定め、期限内に税務署長へ届け出た給与(同項2号)役員賞与を損金にする方法。届出どおりの時期・額で支給しないと損金にならない

国税庁のタックスアンサー(No.5211)によれば、定期同額給与の額を改定して引き続き損金に算入するには、原則として会計期間開始の日から3か月を経過する日までに改定する必要があります。決算後の定時株主総会で翌期の報酬を決める運用がこれに当たります。年度途中の改定は、職制上の地位や職務内容の重大な変更などの「臨時改定事由」、または経営状況が著しく悪化した場合の減額に限られ、業績目標の未達や一時的な資金繰りの都合は該当しないため、「今月は資金が厳しいので報酬を半分にする」運用は差額が損金不算入になるリスクがあります。

事前確定届出給与の届出期限は、原則として、株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です。さらに34条2項は、要件を満たす給与でも「不相当に高額な部分」は損金に算入しないとしています。

ポイント

役員報酬の改定は会計期間開始から3か月以内の定時株主総会で行うのが基本です。年度途中の増減は税務上のリスクがあり、賞与は事前確定届出給与の届出期限を守らないと損金になりません。

取締役が負う義務 ― 善管注意義務・忠実義務・利益相反

会社法330条は、株式会社と役員との関係は委任に関する規定に従うと定めています。受任者は民法644条により「善良な管理者の注意をもって」事務を処理する義務を負い、これが取締役の善管注意義務です。さらに会社法355条は、取締役は法令・定款・株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実に職務を行わなければならないと定めています(忠実義務)。会社と取締役との取引や競業は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認が必要です(356条1項・365条1項)。

問題になりやすい例を挙げます。

  • 回収見込みを確認せずに大口の与信を続け、貸倒れを生じさせた(善管注意義務違反)
  • 会社の資金を自分や親族の会社に無担保で貸し付けた(承認を欠く利益相反取引)
  • 在任中に会社と同じ事業を行う別会社を立ち上げて顧客を移した(356条1項1号の競業取引)

取締役は互いに職務執行を監視する義務を負うと解されており、「営業担当だから経理は知らない」という弁明は通りにくい傾向にあります。配偶者や親など名前だけの「名目的取締役」にも、原則として同じ義務が課されます。

会社に対する責任(会社法423条)と経営判断原則

会社法423条1項は、役員等が「その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。善管注意義務・忠実義務に違反して会社に損害を与えれば、個人の財産で賠償する責任を負うということです。

社長が自分を訴えることは期待できないため、会社法847条は株主代表訴訟を認めています。株主が会社に提訴を請求し、会社が60日以内に訴えを提起しないときは自ら提起でき(同条1項・3項)、公開会社でない会社では6か月の株式保有要件も適用されません(同条2項)。倒産後に破産管財人が旧経営陣の責任を追及する例も少なくありません。

経営判断原則 ― 結果責任ではない

結果が悪かったから常に責任を負うとすれば誰も経営できません。最高裁平成22年7月15日判決は、事業再編の方法と価格の決定について、決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務に違反しないとしています。この枠組みから、経営者がやるべきことは明確です。

  • 判断の前提となる情報を合理的に集めたか(財務資料、取引先の信用情報、専門家の意見)
  • 検討の過程を記録に残したか(取締役会議事録、検討メモ、稟議書)
  • 内容が著しく不合理でないか(法令違反を含む判断は保護されない)

資料も見ず、誰にも相談せず、議事録も残さずに決めた投資が失敗した場合、守られる余地は小さくなります。

第三者に対する責任(会社法429条)― 取引先から個人が訴えられる場面

経営者にとって最も身近なリスクが会社法429条1項です。役員等が「その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとき」は、第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。会社が倒産したとき、取引先が「会社ではなく社長個人」を訴える根拠がこの条文です。

場面問題になる行為追及する側
支払見込みのない仕入れ資金繰りの破綻を知りながら、代金を支払える見込みがないのに発注を続けた仕入先・外注先
放漫経営・資産流出会社の資金を私的に流用し、または親族会社へ流出させ、支払原資を失わせた金融機関・取引先
虚偽の決算書粉飾した計算書類を提示して融資や与信を受けた(429条2項)金融機関・取引先

429条1項は「悪意又は重大な過失」が要件で、単なる経営の失敗では成立しません。しかし、資金繰りの行き詰まりを知りながら新規の仕入れを続けた、支払不能を認識しつつ「必ず払う」と言って納品させた、といった事実があれば、認定されるリスクは高くなります。

429条2項は、計算書類の重要事項の虚偽記載や虚偽の登記・公告について、注意を怠らなかったことを証明できない限り責任を負わせる規定です。また、複数の取締役が同じ損害について責任を負う場合は連帯債務となります(430条)。「社長が勝手にやったこと」でも、監視義務を果たしていなければ名目的取締役が連帯責任を問われる可能性があります。

ポイント

会社法429条は、会社の債権者が経営者個人を訴える根拠です。支払見込みのない取引の継続、資産流出、粉飾決算が典型で、名目的取締役も連帯責任を問われ得ます。資金繰りが厳しくなったときの行動こそ、個人責任の分かれ目です。

取締役の個人責任を避けるための実務

1. 決議と議事録を残し、専門家の意見を記録する

役員報酬、利益相反取引、大口投資、借入、新規事業への参入・撤退は、株主総会または取締役会で決議し、検討の過程を議事録に残します。大口の取引先には信用調査を行い、投資や事業再編には財務・法務・税務の意見を取ってメモや意見書で残しておくことが、「合理的な情報収集のもとで判断した」ことの裏付けになります。

2. 規模に応じた法令遵守の体制を持つ

会社法362条4項6号は、取締役の職務執行が法令・定款に適合することを確保する体制(内部統制システム)の整備を取締役会の決定事項とし、同条5項は大会社にその決定を義務づけています。中小企業では、職務分掌、経理の二重チェック、相談窓口など規模に応じた仕組みを運用していた事実が、監視義務違反を問われたときの反論材料になります。

3. 社外役員には責任限定契約、必要に応じて役員賠償責任保険

業務執行取締役等でない取締役や監査役は、定款に基づき責任限定契約を結べます(427条)。会社法には補償契約(430条の2)と役員等賠償責任保険(430条の3)の規定もありますが、故意・重過失による損害は免責になる商品が多い点に注意が必要です。

4. 資金繰りが厳しくなったときの行動基準を事前に決める

月次で資金繰りを確認し、一定の水準を下回ったら新規の大口仕入れを止める、支払見込みのない発注はしない、金融機関に虚偽の説明をしない、早期に弁護士へ相談する、という基準を文書にしておくことが経営者個人を守ります。

よくある質問(FAQ)

株主が社長一人だけの会社でも、役員報酬は株主総会の決議が必要ですか?
必要です。会社法361条は株主の数による例外を設けていません。株主が一人なら株主全員の同意による書面決議も使えます。議事録を残しておけば、税務調査や将来の融資・M&Aの調査でも説明に困りません。
役員報酬を年度の途中で増やしたり減らしたりしてもよいですか?
会社法上は株主総会の決議(減額なら本人の同意も)があれば可能ですが、税務上は別です。定期同額給与の改定は原則として会計期間開始から3か月以内に限られ、年度途中の増額は増えた部分が損金不算入になります。減額も、職制上の地位の変更や経営状況の著しい悪化に当たらなければ同様です。
役員に賞与を支払いたいのですが、損金にする方法はありますか?
事前確定届出給与の制度を使います。株主総会等で支給時期と確定額を決め、原則として決議日から1か月を経過する日と会計期間開始から4か月を経過する日のいずれか早い日までに税務署長へ届け出ます。届出どおりの時期・額で支給しないと、全額が損金不算入になるリスクがあります。
取締役は会社の借金を連帯保証していなければ個人責任を負わないのですか?
そうではありません。連帯保証がなくても、会社法429条1項により、職務について悪意または重大な過失があり第三者に損害を与えたときは個人で賠償責任を負います。支払見込みのない仕入れの継続、粉飾決算、会社資金の流出が典型です。
経営判断が失敗して会社に損失が出ました。取締役は必ず責任を負うのですか?
結果が悪かっただけでは責任は生じません。最高裁の判例は、決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反にならないとしています。判断の前に合理的な情報を集め、検討の過程を議事録に残しておくことが重要です。法令違反を伴う判断や取締役自身の利益を図る取引は、この保護を受けられません。

まとめ

  • 役員報酬は定款または株主総会の決議で定める(会社法361条)。総額の上限を株主総会で決めて配分を委ねる方法が一般的で、株主一人の会社でも議事録を残す。
  • 税務上は定期同額給与・事前確定届出給与の要件(法人税法34条)を満たす必要があり、改定は会計期間開始から3か月以内、賞与の届出は決議から1か月と期首から4か月のいずれか早い日が原則。
  • 取締役は善管注意義務(330条・民法644条)と忠実義務(355条)を負い、会社との取引・競業には承認が必要(356条・365条)。他の取締役の監視も義務に含まれる。
  • 任務懈怠は会社に対する賠償責任(423条)を生み、株主代表訴訟や破産管財人に追及される。経営判断原則で守られるのは、情報収集と検討過程を記録した判断に限られる。
  • 債権者は429条で経営者個人を訴えることができる。支払見込みのない取引の継続・資産流出・粉飾が典型で、名目的取締役も連帯責任(430条)を問われ得る。

役員報酬の決め方や取締役の責任は、問題が起きてから整えるのでは間に合わない分野です。議事録の整備、利益相反取引の承認、資金繰り悪化時の行動基準づくりは平時にこそ進められます。当事務所の顧問弁護士サービスでは、企業法務専門の弁護士チームがチャット・オンラインで全国の経営者の日常的な判断を支えています。不安のある経営者の方は、まずお問い合わせ(無料相談)からご相談ください。

参考(一次情報)
▶ 動画で見る(YouTube 守りの経営ch)
関連記事・関連ページ
越水 遥
この記事の執筆者
代表弁護士 越水 遥弁護士法人 越水法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会)

大手法律事務所を経て越水法律事務所を設立。企業法務全般、M&A、ファイナンス、スタートアップ支援を手がけ、東証グロース上場企業の社外取締役も務める。YouTube「守りの経営ch」で経営者向けに法律を解説。

弁護士紹介を見る →

※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

← 記事一覧へ戻る毎日の記事をメールで受け取る

顧問契約のご相談は無料です。
まずは会社の状況をお聞かせください。

契約書・労務・取引先トラブル・法改正対応。いま抱えている課題と事業の内容を伺い、優先して整えるべき事項と顧問契約の内容をご提案します。東京のオフィスでの面談のほか、オンラインで全国に対応しています。

お電話(平日 10:30–17:00)
03-6824-4639

✉ メルマガ登録 無料相談