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クレーム・風評・不祥事

悪質クレームとネット誹謗中傷への法的対応 ― 不当要求の線引き・弁護士名義の通知・口コミ削除請求・発信者情報開示

「返金しろ、誠意を見せろ」と毎日電話が来る。Googleマップに事実と違う低評価が書かれた。悪質クレームとネット上の誹謗中傷は、現場が一人で抱え込むと長期化します。この記事では、正当なクレームと不当要求の線引き、社内対応を打ち切って弁護士名義の通知に切り替えるタイミング、口コミ・SNSの削除請求と発信者情報開示の手順を、条文と公的資料に基づいて整理します。体制づくり全般は、既存記事「カスハラ対策義務化で企業が今すぐ整える対応」をご覧ください。

正当なクレームと不当要求の線引き ― 「内容」と「手段」の2軸

「正当なお客様か、悪質クレーマーか」の判断が曖昧だと、正当な苦情を門前払いして炎上するか、不当要求に応じ続けて消耗するか、どちらかに向かいます。判断の軸は2つです。要求の「内容」に理由があるか、そして要求を伝える「手段・態様」が社会通念上許される範囲か。厚生労働省のカスタマーハラスメント指針(令和8年厚生労働省告示第51号)も、社会通念上許容される範囲の苦情は「正当な申入れ」と明記し、「要求の内容」と「手段や態様」に分けて範囲を超える例を挙げています。

観点正当なクレーム(応じる)不当要求(打ち切る)
要求の内容欠陥商品の交換・返金、契約どおりの提供、謝罪、再発防止の説明理由のない要求、商品と無関係な要求、契約を著しく超えるサービス、著しい減額、無関係の損害賠償
根拠事実が確認でき、契約・法律上の責任と対応している事実確認を拒む、根拠を示さず「誠意」で押す
手段・態様口調が強くても事実の指摘が中心で対話が成り立つ暴行、脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言、土下座の強要、無断撮影、大声での威圧
頻度・時間必要な範囲の問い合わせと再質問同じ質問・メールの執拗な繰り返し、長時間の居座り・電話での拘束
金銭の求め方実損の説明があり金額に合理性がある根拠のない金額、「払わないと書き込む」など害悪の告知と結びつく

重要なのは、内容が正当でも手段が不当なら打ち切り対象になることです。欠陥が事実でも、担当者を長時間拘束し「SNSで晒す」と脅すなら、交換・返金は果たしつつ、その言動には応じません。指針は、強い苦痛を与える態様なら1回の言動でも就業環境を害し得るとしており、「まだ1回だから我慢させる」判断は2026年10月1日に義務化されたカスハラ対策の観点でも問題です。

ポイント

線引きは「内容」と「手段」を分けて行います。内容が正当なら対応し、手段が不当ならその言動には応じない。この切り分けの社内共有が現場を守る第一歩です。

社内対応を打ち切る基準と手順

現場は「電話を切ったら逆上される」と恐れて対応を続けがちです。打ち切りは会社の判断として、手順を決めて行う必要があります。

打ち切りを決める3つの基準

  • 会社の回答が出ている:事実確認を終え、応じる範囲と応じない範囲を書面やメールで伝えている。
  • 同じ要求の繰り返し:新しい事実や根拠が出ないまま、同じ主張が続いている。
  • 手段が不当の領域に入っている:暴言・脅し・長時間拘束・執拗な連絡など、表の右列に当たる言動がある。

3つがそろえば「これ以上の対応は差し控える」と告げてよい段階です。事実確認前の打ち切りは、正当なクレームの切り捨てと受け取られ、SNSでの拡散を招きます。

打ち切りの実務手順

  • 窓口を一本化する:担当を店長や総務責任者に集約し、「今後の連絡は〇〇が書面で承ります」と伝えます。
  • 最終回答を書面で出す:回答内容、応じられない理由、同内容の要求には今後回答しないことを簡潔に記載し、相手を非難する表現は入れません。
  • 時間を区切る:「ご説明は以上です」と告げ、一定時間を超えたら退店・終話を求めます。居座る場合の警察通報の手順も決めておきます。
  • 記録を残す:日時・発言内容・対応者を時系列で記録し、通話は録音します。ネット上の書き込みは、URL・投稿日時・投稿者名が分かる形でスクリーンショットを保存します。

弁護士名義の通知に切り替えるタイミングと通知書の中身

弁護士名義の通知書は「法的手段を取る準備を整えた」と示す手段です。早すぎると対話で解決できた顧客を敵に回し、遅すぎると従業員が疲弊します。

切り替えの目安

  • 最終回答を書面で出した後も、同内容の要求や連絡が続いている。
  • 金銭の要求が「払わなければ〇〇する」という害悪の告知と結びついている。
  • 従業員の自宅・家族・個人SNSへの接触など、業務の範囲を超えた攻撃が始まった。
  • ネット上に事実と異なる投稿がされ、削除請求や発信者の特定を検討する必要がある。

通知書に書くこと・書かないこと

記載するのは、①弁護士に委任し今後の窓口は弁護士になること、②会社の最終的な見解、③業務妨害・脅迫・名誉毀損に当たり得る行為を直ちに止めること、④続く場合は刑事告訴・損害賠償請求・仮処分を検討すること、の4点です。未確認の事実を「虚偽」と断定したり、相手を人格的に非難する記載は避けます。通知書は相手のSNSに公開される前提で、第三者が読んでも冷静で筋が通っていると分かる文面にします。送付は内容証明郵便が基本で、匿名アカウントしか手がかりがない場合は後述の発信者情報開示を先行させます。

悪質クレームが犯罪・不法行為になる場面 ― 刑法と民法の条文

「クレーム」と括られていても、一定の線を越えれば犯罪です。条文を把握しておくと、警察への相談や通知書の記載が具体的になります(現行刑法では懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されています)。

条文罪名典型的な場面法定刑
222条脅迫「店を潰す」など害悪の告知2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
223条強要脅迫や暴行で土下座・謝罪文作成など義務のないことをさせる3年以下の拘禁刑(未遂も処罰)
249条恐喝「払わないと書き込む」と脅して金銭や無償サービスを交付させる10年以下の拘禁刑
230条名誉毀損SNS・口コミで具体的事実を示し社会的評価を下げる(事実の有無を問わない)3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
231条侮辱事実を示さず「詐欺会社」「無能」と公然と侮辱する1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
233条信用毀損・偽計業務妨害虚偽の風説で信用を害する、虚偽の注文で業務を妨げる3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
234条威力業務妨害大声・居座り・電話の繰り返しで業務を止める233条と同じ

名誉毀損・侮辱は親告罪で、告訴がなければ起訴されません(刑法232条)。また名誉毀損には、公共の利害に関する事実について専ら公益を図る目的があり真実の証明があれば処罰されない特例があり(230条の2)、実際の被害を具体的に書いた口コミは「低評価だから違法」とはなりません。

民事上は、故意または過失で他人の権利を侵害した者は損害賠償責任を負い(民法709条)、名誉侵害では慰謝料も対象です(710条)。裁判所は損害賠償に代えて、または併せて、謝罪広告など名誉を回復するのに適当な処分を命じることもできます(723条)。請求権は損害および加害者を知った時から3年で時効消滅します(724条1号)が、匿名投稿では時効より先に通信記録の消去が問題になります。

口コミ・SNSの削除請求 ― 申出窓口から仮処分まで

ネット上の投稿への対応は「削除」と「発信者の特定」の2本立てです。

削除できる投稿・できない投稿

削除の根拠は、投稿が会社の名誉・信用・営業上の利益を侵害していることです。実際の利用者の体験に基づく低評価(「接客が遅かった」など)、真実または真実と信じる相当の理由がある事実の指摘、人格攻撃に至らない意見・論評は、削除請求が通りにくいと考えてください。逆に、来店・取引の事実がない者の投稿、具体的事実が虚偽の投稿、従業員の個人名を晒す投稿、「詐欺」「犯罪者」といった人格攻撃は削除の対象です。来店記録・取引記録と照合し、「どの一文が、どの事実とどう違うか」を特定する作業が成否を左右します。

削除請求の3段階

削除は、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法。2025年4月1日施行の改正で改称)が枠組みを定めています。

  • 段階1:プラットフォームの申出窓口。総務大臣の指定を受けた大規模事業者は、申出の受付方法を公表し(同法22条)、申出があれば遅滞なく調査し(23条)、申出を受けた日から14日以内の省令で定める期間内に、削除したか、しなかった場合はその理由を通知する義務があります(25条)。
  • 段階2:送信防止措置の依頼(書面)。侵害情報・侵害された権利・理由を示して依頼します。事業者が発信者に照会し、照会を受けた日から7日を経過しても発信者が同意しない旨を申し出なければ、事業者は削除しても発信者に賠償責任を負いません(3条2項2号)。この免責があるため、根拠を整えた依頼には事業者も応じやすくなります。
  • 段階3:削除の仮処分。それでも削除されなければ、裁判所に削除を命じる仮処分を申し立てます。
ポイント

真実の低評価は削除できないことを前提に、虚偽・人格攻撃・個人情報の部分に絞って、会社の記録と対比しながら請求するのが現実的です。

発信者情報開示の手順 ― 開示命令・提供命令・消去禁止命令

同じ人物が繰り返し投稿する、金銭要求と結びついている、従業員に実害が出ている場合は、発信者を特定して損害賠償や刑事告訴につなげます。開示を請求できるのは、①権利が侵害されたことが明らかで、かつ②損害賠償請求権の行使のために必要であるなど正当な理由があるときです(情報流通プラットフォーム対処法5条1項)。

現行法では、裁判所が決定で開示を命じる発信者情報開示命令(8条)を、次の2つの命令と組み合わせ、SNS事業者と通信事業者への請求を1つの手続で進められます。

手続条文内容会社にとっての意味
発信者情報開示命令8条裁判所が決定で事業者に発信者情報の開示を命じる訴訟より簡易な決定手続で開示を得られる
提供命令15条SNS事業者に、判明する通信事業者の名称等を申立人へ提供し、申立人がその通信事業者に申し立てたときは発信者情報をその事業者へ提供するよう命じる回線事業者を自力で突き止めずに手続が一本につながる
消去禁止命令16条事件終了までの間、保有する発信者情報を消去しないよう命じる手続中にログが消えて特定不能になるリスクを止める

提供命令で通信事業者の名称等の提供を受けた申立人は、提供を受けた日から2か月以内にその事業者への申立てをして通知しなければ、提供命令の効力が失われます(15条3項2号)。会社側の記録提出が遅れると期限に影響します。

氏名・住所が判明すれば、弁護士名義の通知書を本人に送り、投稿の停止、慰謝料や調査費用を含む損害賠償を請求できます(民法709条・710条)。悪質な場合は刑事告訴も選択肢です。一方、開示には時間と費用がかかるため、「削除され繰り返されていない」なら削除で止める判断も合理的です。投稿を確認した時点で、「削除で止めるか、特定まで進むか」を弁護士と早く決めることをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

悪質クレーマーに「弁護士に相談する」と言ってよいですか。
問題ありません。正当な権利行使の予告であり、脅迫には当たりません。ただし「人生を終わらせる」のような害悪の告知に聞こえる表現は避け、「今後は弁護士を通じて対応します」と事実だけを伝え、実際に依頼する準備を進めてください。
要求どおり返金してしまいました。問題はありますか。
一度応じると「払う会社」と認識され、要求が繰り返されるリスクがあります。今後は会社の基準を明文化し、同種の要求には応じないと書面で伝え直すのが有効です。害悪の告知と結びついた要求に支払った場合は、恐喝(刑法249条)として警察に相談する余地もあります。
Googleマップの低評価口コミは削除できますか。
実際の利用者の体験に基づく低評価は、表現が厳しくても削除は難しいのが実情です。通りやすいのは、来店・取引の事実がない者の投稿、具体的事実が虚偽の投稿、従業員の個人情報や人格攻撃を含む投稿です。会社の記録と照合して「どの一文が虚偽か」を特定し、申出窓口から申し出るのが最初の手順です。
発信者情報開示はどのくらいの期間がかかりますか。
事案やプラットフォームによって幅があり、一律の期間は示せません。現行の開示命令手続は提供命令・消去禁止命令と組み合わせて1つの流れで進められ、従来の2段階訴訟より短縮が期待できます。ログの保存期間は限られているため、早期に動くことが最も重要です。
従業員が個人のSNSで客から攻撃されています。会社は何をすべきですか。
カスハラ対策の措置義務の下では、従業員の相談に応じ、被害者への配慮を行う必要があります。スクリーンショットの保存を手伝い、会社名義または弁護士名義で投稿者への警告や削除請求を行い、必要に応じて業務から一時的に外すことが考えられます。従業員個人に任せるのは避けてください。

まとめ

  • 正当なクレームと不当要求は「要求の内容」と「手段・態様」の2軸で線引きし、内容が正当でも手段が不当ならその言動には応じない。
  • 打ち切りは「最終回答を書面で出した後、同じ要求が続き、手段が不当の領域に入ったとき」。窓口を一本化し、記録を残す。
  • 弁護士名義の通知は、最終回答後も要求が続くとき、害悪の告知を伴うとき、従業員個人への攻撃やネット投稿が始まったときが目安。
  • 脅迫(刑法222条)・恐喝(249条)・名誉毀損(230条)・信用毀損・業務妨害(233条・234条)は犯罪で、民法709条・710条の損害賠償の対象。
  • 削除は申出窓口(14日以内の通知義務)→送信防止措置の依頼(7日の照会)→仮処分、特定は開示命令・提供命令・消去禁止命令。ログが消える前に動く。

悪質クレームと誹謗中傷は、初動で「どこまで応じ、どこで切るか」の基準を持っているかで結果が大きく変わります。当事務所の顧問弁護士サービスでは、クレーム対応基準の整備、弁護士名義の通知書の作成、口コミ・SNSの削除請求と発信者情報開示までを、チャット・オンラインで全国の企業に対応しています。「この要求に応じるべきか迷っている」段階でも、お問い合わせ(無料相談)からお気軽にご相談ください。

参考(一次情報)
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越水 遥
この記事の執筆者
代表弁護士 越水 遥弁護士法人 越水法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会)

大手法律事務所を経て越水法律事務所を設立。企業法務全般、M&A、ファイナンス、スタートアップ支援を手がけ、東証グロース上場企業の社外取締役も務める。YouTube「守りの経営ch」で経営者向けに法律を解説。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

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