「会社の借入なのに、なぜ社長個人が連帯保証人なのか」――多くの経営者が、創業時に署名した経営者保証をそのまま更新し続けています。この記事では、経営者保証を外すために整えるべき経営者保証ガイドラインの3要件、金融機関との交渉で使える監督指針上の説明義務、借入契約で確認すべき期限の利益喪失条項・財務制限条項・極度額、事業承継のときに保証を引き継がせない考え方を、条文と金融庁の公的資料に沿って整理します。
経営者保証とは何か ― 会社の借入が社長個人の債務になる仕組み
経営者保証とは、会社が金融機関から借入をするときに、代表者などの経営者が個人として連帯保証人になることです。保証人は、会社が返済しないときに代わって返済する責任を負い(民法446条1項)、保証契約は書面または電磁的記録で行わなければ効力を生じません(同条2項・3項)。
中小企業向け融資の保証はほとんどが「連帯保証」です。通常の保証人が持つ催告の抗弁(まず会社に請求してほしい)や検索の抗弁(会社の財産から取り立ててほしい)が、連帯保証人にはありません(454条)。金融機関は会社より先に経営者個人へ全額を請求できるということです。
経営者は公証人の意思確認手続の対象外
2020年4月施行の改正民法は、事業のための借入を第三者が個人保証する場合、契約前1か月以内に公正証書で保証意思を表示しなければ無効としました(465条の6)。しかし、会社の取締役や議決権の過半数を持つ株主などは適用外です(465条の9)。経営者は「分かって保証している」とみなされ、法律の保護は限られています。
経営者保証は会社の有限責任を事実上なくす仕組みです。連帯保証であり、公証人による意思確認の保護も経営者には及びません。
経営者保証ガイドラインの3要件 ― 「保証を外せる会社」の条件
「経営者保証に関するガイドライン」は、2013年12月に策定され2014年2月から適用されている、金融機関と中小企業の自主的なルールです。法律ではありませんが、金融庁の監督指針が金融機関に「融資慣行として浸透・定着」させるよう求めています。会社が次の3要件を将来にわたって満たすと見込まれる場合、金融機関は経営者保証を求めない可能性や、保証の機能を代替する融資手法を検討することとされています。
| ガイドラインの要件 | 会社が整えること | 金融機関が確認する資料の例 |
|---|---|---|
| 法人と経営者の関係の明確な区分・分離 | 役員貸付金・仮払金の解消、経営者個人の資産を事業に使わない、役員報酬や交際費を適切な範囲に収める、会社と経営者の資金のやり取りを議事録・契約書で説明できるようにする | 決算書の貸付金・仮払金勘定、役員報酬の決定議事録、税理士・公認会計士の確認書 |
| 財務基盤の強化 | 借入金を事業収益で返済できる体制をつくる。内部留保による純資産の積み増し、不要資産の処分、借入の一本化 | 複数期の決算書、資金繰り表、借入一覧表、事業計画書 |
| 財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示 | 年次決算に加え、試算表や資金繰り表を定期的に提出する。業績が悪化したときほど早く説明する | 月次・四半期の試算表、資金繰り表、面談記録 |
中小企業が最もつまずくのが1つ目の「区分・分離」です。社長への貸付金が決算書に残っている、会社の車を家族が私用で使っている、会社の口座から個人の支出が出ている――金融機関から見れば「会社の財産がいつ個人に流れるか分からない」というリスクです。貸付金の清算、個人利用資産の整理、役員報酬の決定手続の整備から着手するのが順序です。
金融機関との交渉手順 ― 「なぜ保証が必要か」の説明を求める
2022年12月23日、経済産業省・金融庁・財務省は「経営者保証改革プログラム」を策定し、金融庁は監督指針を改正して保証を求める際の手続を厳格化しました。「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」II-10は、新規・既存の保証契約について、「どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」の客観的合理的理由を顧客に説明し、その結果を書面または電子的方法で記録する態勢を金融機関に求めています。全額保証かゼロかの二択ではなく、保証金額の上限設定や一部融資のみの解除という中間の着地点もあります。
交渉の進め方
- 準備: 直近3期分の決算書、試算表、資金繰り表、借入一覧、役員貸付金の解消状況をまとめ、3要件に沿って自社の現状と改善計画を書面にします。
- 申入れ: 融資相談や契約更新の場で、「ガイドラインに基づき、保証を求めない取扱いまたは保証金額の見直しを検討してほしい」と明確に伝え、面談後にメールや書面で内容を残します。
- 説明の要求: 保証が必要という回答なら、どの要件が不十分で、何を改善すれば解除の可能性が高まるのかを書面で示してもらいます。
- 代替手法の検討: 監督指針は、停止条件付・解除条件付の保証契約や、売掛金・在庫を担保とするABLなど、経営者保証の機能を代替する融資手法の充実を金融機関に求めています。「一定の財務指標を達成したら保証を解除する」解除条件付の保証は、使いやすい中間策です。
金融機関には「保証が必要な理由」と「外すための改善点」の説明・記録が求められています。3要件に沿った資料を準備し、申入れと説明の要求を書面で残します。
借入契約で確認すべき条項 ― 期限の利益喪失と財務制限条項
会社がどのような場合に「一括返済」を迫られるのかは、保証人である経営者がいつ全額の請求を受けるのかという問題と直結します。借入契約書(金銭消費貸借契約証書・銀行取引約定書)では次の条項を確認してください。
期限の利益喪失条項 ― 当然喪失と請求喪失
「期限の利益」とは、約束の返済期日まで返さなくてよいという借主の利益です。民法137条は、破産手続開始の決定、担保の滅失・損傷・減少、担保提供義務の不履行を法定の喪失事由としていますが、契約書にはこれよりはるかに広い事由が書き込まれています。支払停止、破産等の申立て、手形の不渡り、差押えなどで通知なしに全額の期限が到来する「当然喪失」と、分割金の支払遅延、他の債務の不履行、信用状態の著しい悪化などで金融機関の請求により全額返済となる「請求喪失」に分かれます。1回の遅延で全額請求が可能になる書き方か、他行の借入の遅延も事由になるか(クロスデフォルト)を確認してください。
財務制限条項(コベナンツ)
規模の大きい融資やシンジケートローンでは、「各決算期末の純資産を前期末の一定割合以上に維持する」「2期連続で経常損失を計上しない」といった財務制限条項が付くことがあり、違反は期限の利益喪失の請求事由になるのが一般的です。赤字が1期出ただけで違反となる設計か、2期連続か、違反時に協議期間があるのかを確認してください。
保証人への通知義務 ― 民法458条の3
会社が期限の利益を失ったとき、金融機関は保証人に対し、その事実を知った時から2か月以内に通知しなければなりません(458条の3第1項)。怠った場合、喪失時から通知までの遅延損害金は保証人に請求できません(同条2項)。また保証人は、会社の返済状況の情報提供を金融機関に求めることができます(458条の2)。
保証契約書そのものの読み方 ― 根保証・極度額・元本確定期日
保証には、借入ごとに保証する「特定債務保証」と、将来の借入も含めて「一切の債務」を包括的に保証する「根保証」があります。
個人が根保証人になる場合、極度額(利息・損害金まで含めた保証の上限額)を書面で定めなければ契約は無効です(民法465条の2)。さらに、貸金債務を含む個人の根保証では、元本確定期日を契約から5年を超える日に定めることはできず、定めがなければ3年で元本が確定します(465条の3第1項・2項)。確定後の借入には保証が及ばないため金融機関は更新の都度署名を求めますが、経営者にとっては更新ごとに保証の解除や極度額の引下げを交渉する機会でもあります。
会社から保証人への情報提供義務(民法465条の10)
会社が事業のための借入について個人に保証を委託するときは、会社の財産・収支の状況、他の債務の有無と履行状況、他の担保の内容を保証人になろうとする者に提供しなければなりません(465条の10第1項)。提供を怠ったり虚偽の情報を提供したことを金融機関が知り、または知ることができた場合、保証人は保証契約を取り消せます(同条2項)。後継者や親族に保証を頼むときに注意が必要です。
| 確認項目 | 見る場所 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 保証の種類 | 保証契約書・銀行取引約定書 | 特定債務保証か根保証か。根保証なら「一切の債務」の範囲 |
| 極度額 | 保証契約書 | 記載の有無(なければ無効)、借入総額と比べた水準 |
| 元本確定期日 | 保証契約書 | 5年以内か、定めがなければ3年。更新時は交渉の機会 |
| 保証解除の条件 | 特約・覚書 | 解除条件付保証なら、達成すべき指標と解除手続が明記されているか |
事業承継・M&Aのときの保証の引継ぎ ― 二重徴求を避ける
事業承継では、前経営者の保証が残ったまま後継者にも保証を求められる「二重徴求」が長年の課題でした。ガイドラインには事業承継時に焦点を当てた特則が定められ、金融機関は原則として前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないこと、後継者に保証を求めるかどうかは3要件を踏まえて慎重に判断することが求められています。監督指針も、事業承継やM&Aで株主が変わる保証契約について既存保証の見直しを求めています。
代表を退いた後も保証が残ると、前経営者は経営に関与できないまま債務だけを負い続けることになります。承継の計画段階で、前経営者の保証解除と、後継者に保証を求めない取扱いの可否を同時に申し入れることが重要です。
M&Aで会社を売却する場合も同様です。株式譲渡後も保証が残れば、買主の経営の失敗の責任を前オーナーが負うことになるため、株式譲渡契約には、クロージング時または一定期間内に買主が売主の保証を解除させ、解除できない場合は買主が売主を補償する条項を入れるのが実務上の対応です。
事業承継・M&Aでは、前経営者の保証解除と後継者への保証不要の申入れを同時に行い、株式譲渡契約には保証解除の義務と補償条項を明記しておくことが前オーナーを守ります。
よくある質問(FAQ)
経営者保証を外すには、具体的に何から始めればよいですか?
すでに締結している既存の保証を外してもらうことはできますか?
金融機関から「保証は規定なので必要です」と言われました。どう対応すればよいですか?
保証契約書に極度額の記載がありません。この保証は有効ですか?
社長を退任して息子に代表を譲りましたが、私の保証は残ったままです。どうすればよいですか?
財務制限条項に違反しそうです。すぐに全額返済を求められますか?
経営者保証を外せなかった場合、会社が倒産したら自宅は必ず失いますか?
まとめ
- 経営者保証は連帯保証であり、会社より先に経営者個人へ全額請求できます。公証人の意思確認の保護も経営者には及びません(民法454条・465条の9)。
- 保証を外す条件はガイドラインの3要件(法人と経営者の区分・分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示)です。まず役員貸付金の解消と資金の区分から着手します。
- 監督指針は金融機関に「保証が必要な理由」と「解除の可能性を高める改善点」の説明・記録を求めています。申入れと説明の要求は書面で残します。
- 借入契約では、期限の利益喪失事由(当然喪失・請求喪失・クロスデフォルト)、財務制限条項、保証の極度額と元本確定期日を契約前に確認します。
- 事業承継・M&Aでは、前経営者の保証解除と後継者への保証不要を同時に申し入れ、株式譲渡契約に保証解除と補償の条項を入れます。
借入契約書や保証契約書の確認、金融機関への申入れ書面の作成、事業承継やM&Aに伴う保証の整理は、顧問弁護士が日常的に関わることで進めやすくなる分野です。当事務所の顧問弁護士サービスでは、企業法務専門の弁護士チームが、契約書と交渉の両面から経営者を支えます。手元の契約書を見ながら相談したいという段階でも、お問い合わせ(無料相談)からお気軽にご連絡ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
