「取適法、カスハラ対策、公益通報、個人情報……改正の話は聞くが、自社に関係があるのはどれで、いつまでに何をすればよいのか分からない」――企業の経営者・総務担当の方から、当事務所にはこうしたご相談が続いています。2026〜2027年は中小企業にも直接適用される法改正の施行が集中しており、施行日を過ぎてから気づくと「従来どおりの運営」がそのまま法令違反になりかねません。この記事では、2026〜2027年施行の主な法改正を施行日順の一覧表で整理し、準備スケジュールの立て方をまとめます。
2026〜2027年 法改正カレンダー ― 施行日×法律×すべきこと
まず全体像です。中小企業に適用される主な法改正を施行日順に並べました。「対象」欄で自社に当たる行に印を付け、「すべきこと」欄を社内のタスクに落とすところから始めてください。施行日は所管省庁の公表資料と e-Gov法令検索で確認できたものに限り、政令が未公布のものは「未確定」としています。
| 施行日 | 法律・改正内容 | 対象となる中小企業 | 中小企業がすべきこと |
|---|---|---|---|
| 2026年1月1日 | 取適法(下請法を中小受託取引適正化法に改正・改称。従業員数基準の追加、手形払いの禁止、協議に応じない一方的な代金決定の禁止) | 外注・業務委託をする発注側の法人、受注側の中小企業 | 「委託事業者」該当性の判定、発注書面・支払条件の見直し |
| 2026年4月1日 | 改正物流効率化法の全面施行(特定荷主等の中長期計画提出・物流統括管理者の選任義務) | 前年度取扱貨物量9万トン以上の荷主等(他は努力義務) | 貨物量の把握、該当すれば初回中長期計画を2026年10月末までに提出 |
| 2026年4月1日 | 改正女性活躍推進法(男女間賃金差異・女性管理職比率の公表義務が101人以上に拡大) | 常時雇用101人以上(100人以下は努力義務) | 施行後最初に終了する事業年度の実績から公表 |
| 2026年4月1日(基本) | 改正労働安全衛生法(個人事業者等を保護対象に。混在作業場所の措置、休業4日以上の災害報告) | 一人親方・フリーランスに現場作業を任せる事業者 | 安全衛生ルールを個人事業者等にも適用 |
| 2026年7月1日 | 障害者法定雇用率の引上げ(2.5%→2.7%) | 常時雇用37.5人以上の事業主 | 雇用義務人数の再計算、採用計画の確認 |
| 2026年10月1日 | 改正労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法(カスタマーハラスメント対策、求職者等へのセクハラ対策の措置義務) | 労働者を1人でも雇用する全事業主(猶予なし) | 基本方針の周知、相談窓口、対応手順、採用担当者への教育 |
| 2026年12月1日 | 改正公益通報者保護法(フリーランスを通報者に追加、通報妨害・探索の禁止、解雇・懲戒への刑事罰と推定規定) | 全事業者(体制整備義務は300人超、300人以下は努力義務) | 内部通報規程の見直し、誓約書・NDAの点検、懲戒・解雇手続の記録強化 |
| 2027年4月1日 | 育成就労制度の施行(技能実習制度の発展的解消)、不法就労助長罪の法定刑引上げ | 外国人材を受け入れる企業 | 技能実習からの移行計画、在留カード確認の記録化 |
| 2027年4月1日 | 改正労働安全衛生法(個人事業者等自身に課される措置義務) | 個人事業者等と、これに業務を委託する事業者 | 委託契約・現場ルールへの反映 |
| 未確定(2028年7月までに政令で定める日) | 令和8年改正個人情報保護法(2026年7月17日公布。課徴金制度、統計・AI開発目的の同意不要特例など) | 全ての個人情報取扱事業者 | 保有データの棚卸し、委託先管理・漏えい時手順の見直し |
表の施行日は「義務が始まる日」であり、準備を始める日ではありません。規程改定・周知・教育には最低でも3か月はかかりますので、自社に当たる行を特定したら、施行日の半年前を目安に逆算して着手してください。
施行済みの改正 ― 対応漏れの確認
公開時点(2026年10月)で表の前半はすでに施行済みです。まず対応漏れを確認します。
取適法(2026年1月1日)― 発注側の判定を資本金だけでしていないか
旧下請法は資本金のみで適用を判断していましたが、取適法では従業員数の基準が加わり、資本金を小さく抑えていた会社も「委託事業者」になり得ます。2026年1月1日以降の発注では手形払いが禁止され、協議に応じない一方的な代金決定も禁止行為です。発注書面、支払サイト、値決めの進め方の3点を点検してください。詳しくは取適法とフリーランス法の解説記事をご覧ください。
物流効率化法・女性活躍推進法・障害者雇用率 ― 「規模の節目」を再確認
運送会社でなくても、前年度の取扱貨物量が9万トン以上なら「特定荷主」として中長期計画の提出と物流統括管理者の選任が義務になり、初回の提出期限は2026年10月末です。常時雇用101人以上の企業は男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が必須になり、障害者の法定雇用率は2.7%となって雇用義務の対象が常時雇用37.5人以上に広がりました。従業員30〜100人台の企業は、人数の節目を超えていないか確認してください。
2026年10月1日施行 ― カスハラ対策と就活セクハラ対策の義務化
2026年10月1日、令和7年法律第63号による改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント対策が全事業主の措置義務になりました(同法33条)。中小企業への猶予期間はなく、労働者を1人でも雇用していれば施行日から対象です。厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が求める措置は、要約すると、①カスハラを許さず従業員を守る方針の明確化と周知、②相談窓口と対応体制の整備、③事案発生時の対応手順の策定と、相談を理由とする不利益取扱いの禁止の三つです。
同じ改正で、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も男女雇用機会均等法13条に基づく措置義務となり、採用面接やOB・OG訪問の場面が対象に入りました。パワハラ防止措置の根拠条文も同法31条に移ったため、規程の条文番号は見直しが必要です。具体的な進め方はカスハラ対策義務化の解説記事で説明しています。
カスハラ対策義務の違反に罰金はありませんが、助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表され得ます。より現実的なリスクは、従業員から「会社は守ってくれなかった」として安全配慮義務違反を問われることです。
2026年12月1日施行 ― 改正公益通報者保護法
令和7年法律第62号による改正公益通報者保護法は、2026年12月1日に施行されます。内部通報の体制整備が義務付けられるのは常時使用する労働者が300人を超える事業者で、300人以下は引き続き努力義務です。しかし、次のとおり規模を問わず全事業者に適用される項目があり、むしろ中小企業の方が足元をすくわれやすい内容です。
| 改正項目 | 内容 | 300人以下の企業への影響 |
|---|---|---|
| 通報者の範囲拡大 | 業務委託関係にあるフリーランス(終了後1年以内を含む)を追加し、通報を理由とする契約解除等を禁止 | 外注先の指摘も公益通報になり得る |
| 通報妨害・探索の禁止 | 正当な理由なく「通報しない」合意を求める行為は禁止(合意は無効)。通報者を特定する目的の行為も禁止 | 誓約書・NDAに通報禁止と読める条項がないか点検 |
| 立証責任の転換 | 通報後1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とするものと推定 | 懲戒・解雇の理由と手続を客観的に記録 |
| 刑事罰の新設 | 通報を理由に解雇・懲戒をした者に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人に3,000万円以下の罰金 | 経営者個人が処罰対象。社長の「即日解雇」が最大のリスク |
中小企業に最低限お勧めするのは、①通報窓口(社内担当者または顧問弁護士などの外部窓口)を定めて周知する、②誓約書・秘密保持契約から通報を妨げる文言を除く、③通報者の処遇変更は理由と経緯を書面で残す、の3点です。
2027年以降と施行日未確定のもの ― 育成就労・個人情報保護法ほか
育成就労制度(2027年4月1日)
令和6年改正入管法等により技能実習制度は発展的に解消され、2027年4月1日から育成就労制度が始まります。原則3年で特定技能1号の水準まで育成する制度で、一定の条件下で本人の意向による転籍が認められる点が従来と大きく異なります。技能実習生を受け入れている企業は、経過措置と新制度での受入れ計画を今から整理する必要があります。あわせて不法就労助長罪の法定刑が引き上げられ、在留資格の確認を怠った企業は「知らなかった」では免責されません。
令和8年改正個人情報保護法(遅くとも2028年7月まで)
2026年7月10日に成立し、同月17日に公布された改正個人情報保護法は、公布の日から2年を超えない範囲内で政令で定める日に施行され、執筆時点で施行日は確定していません。改正の柱は課徴金制度の導入と、統計作成・AI開発目的での同意不要特例などです。課徴金に事業規模による適用除外は予定されていないため、保有データの棚卸しから施行日を待たずに進めることをお勧めします。現行法の実務は個人情報保護法の実務記事で整理しています。
施行日が確定していない動き
労働基準法制は、労働時間制度や過半数代表制などの論点が労働政策審議会で継続審議中で、執筆時点で改正法は成立しておらず施行日もありません。ストレスチェックの50人未満事業場への義務化は、公布後3年以内の政令で定める日とされ、まだ定まっていません。消費者契約法・特定商取引法も、確定した施行日のある改正はありません。
中小企業の準備スケジュール ― 施行日から逆算する
失敗の典型は「施行日は知っていたが着手が直前になり、規程改定だけで周知と教育が間に合わなかった」というものです。次の表は、1件の法改正について施行日から逆算した標準的な流れです。改正ごとにこの表を作り、担当者と期限を書き込むだけで、対応の抜けは大きく減ります。
| 時期 | やること | 成果物の例 |
|---|---|---|
| 施行6か月前 | 適用の有無を判定し、所管省庁の資料と条文で義務の内容を確認する | 適用判定メモ |
| 施行3〜4か月前 | 就業規則・社内規程・契約書ひな型・業務フローの改定案を作る | 規程改定案、ひな型修正版 |
| 施行2か月前 | 従業員・取引先への周知、担当者の教育、窓口の設置 | 周知文、研修資料 |
| 施行1か月前 | 就業規則の届出、取引先への条件変更の通知、運用テスト | 届出控え、通知書の送付記録 |
| 施行後 | 運用状況の点検、記録の保存、次の施行日の確認 | 点検チェックリスト、法改正カレンダー |
法改正情報は「成立」「公布」「施行」を区別して記録し、施行日が決まっていない改正は「未確定」と明記してください。顧問弁護士がいる会社では「適用判定」と「規程改定案の確認」を任せることで、担当者は周知と運用に集中できます。
よくある質問(FAQ)
2026年10月から中小企業にも義務化された法改正は何ですか。
従業員300人以下の会社に改正公益通報者保護法は関係ありますか。
改正個人情報保護法はいつから施行されますか。
取適法は資本金1,000万円以下の会社でも発注側として規制されますか。
一人親方やフリーランスに現場作業を任せている場合、労働安全衛生法の改正で何が変わりますか。
技能実習生を受け入れている会社は2027年4月までに何をすべきですか。
法改正の施行日はどこで確認すればよいですか。
まとめ
- 2026年は取適法(1月)、物流効率化法・女性活躍推進法・労働安全衛生法(4月)、障害者雇用率(7月)、カスハラ対策(10月)、公益通報者保護法(12月)と施行が続いています。
- 2027年4月1日には育成就労制度と労働安全衛生法の個人事業者等自身の義務が施行され、令和8年改正個人情報保護法は2028年7月までに政令で定める日に施行されます。
- 公益通報者保護法の改正は300人以下の企業にも刑事罰・推定規定・通報妨害の禁止が適用されます。
- 改正ごとに「適用判定→規程・契約改定→周知・教育→届出→点検」を施行6か月前から逆算して進めます。
法改正対応は、適用の有無の判定を誤ると、その後の努力が無駄になります。当事務所の顧問弁護士サービスでは、企業法務専門の弁護士チームが、貴社に適用される法改正の洗い出しと施行日管理、就業規則・契約書ひな型・内部通報規程の整備まで、チャット・オンラインで全国の企業を継続的に支援しています。「自社はどの行に当たるのか」の確認だけでも構いませんので、お問い合わせ(無料相談)からお気軽にご連絡ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
