「貴社の商品名は当社の登録商標を侵害している。2週間以内に使用を中止せよ」。こうした侵害警告書が突然届くと、どの経営者も動揺します。しかし、警告書が届いたからといって侵害が確定したわけではありません。この記事では、商標権・特許権・著作権の侵害警告書が届いたときの初動、回答期限の扱い、権利の確認と反論の組み立て方、無視や安易な謝罪のリスクを条文に沿って整理し、逆に貴社が警告書を送る場合の注意点にも触れます。
警告書が届いた直後にやること・やってはいけないこと
警告書への対応は最初の数日で方向が決まります。やるべきことは「保全」と「把握」、やってはいけないことは「感情的な即答」と「黙殺」です。
まずやるべきこと
- 書面と封筒を原本のまま保全する。配達日を記録し、メールならヘッダー情報を含めて保存します。
- 警告の対象を特定する。どの商品名・ロゴ・技術・画像が、どの権利(登録番号・著作物)を侵害していると主張されているのかを書面から抜き出します。
- 自社の使用状況を棚卸しする。いつから、どの商品・サービスに、どの程度の売上規模で使っているか。使用開始時期を示す資料(カタログ、請求書など)は先使用の主張や損害額の議論で必要になります。
- 社内の情報共有を限定する。担当者が取引先に不用意に話すと、相手の主張を認めたと受け取られるおそれがあります。
やってはいけないこと
- 無視する。警告書自体に法的拘束力はありませんが、相手は差止請求(商標法36条、特許法100条、著作権法112条)や損害賠償請求の訴訟に進むことができます。無視は「警告を受けながら使用を続けた」事実を残し、故意性の評価で不利に働きます。
- 安易に謝罪・使用中止を約束する。「すぐに取り下げます」という返事は侵害を認めた証拠として扱われかねません。本当に侵害していないケースや、相手の登録自体に問題があるケースは少なくありません。
- 電話で詳しい事情を話す。口頭のやり取りは記録が残らず後で争いになるため、連絡は書面に限定します。
警告書は「相手の主張」であって裁判所の判断ではありません。初動では保全と棚卸しに集中し、肯定も否定もしない「受領と検討中の通知」にとどめることが、選択肢を残す安全な手順です。
回答期限の法的な意味と扱い方
警告書には「本書面到達後2週間以内に回答せよ」といった期限が記載されるのが一般的です。この期限は相手が一方的に設定したもので、法律上の期限ではなく、過ぎたからといって権利が失われたり侵害が認められたりすることはありません。
ただし、黙って期限を過ぎると、相手は交渉の意思がないと判断し、訴訟や仮処分の申立てに移る可能性があります。実務上は、期限内に「貴信を受領し、事実関係と権利関係を確認中である。〇月〇日までに回答する」という検討中の通知と期限延長の申入れを送るか、調査が間に合えば実質的な回答を送ります。いずれも、認める表現を避けることが大切です。
| 時期 | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 受領日〜3日 | 原本保全、対象の特定、使用状況の棚卸し、情報共有の限定 | 相手への電話連絡・謝罪は避ける |
| 〜1週間 | 相手の権利をJ-PlatPatで確認、侵害の可能性の一次評価、弁護士への相談 | 登録番号・指定商品・権利者名・存続期間を照合 |
| 回答期限まで | 方針決定(争う/条件交渉/使用変更)、回答書または延長申入れの送付 | 書面で、認める表現を避けて送る |
| 回答後 | 交渉、必要に応じて無効審判・不使用取消審判・判定の活用、合意書の締結 | 合意は書面化し、清算条項を入れる |
相手の権利を確認する ― 登録の有無・範囲・有効性
警告書に書かれた権利が本当に存在し、貴社の行為に及ぶのかを、権利の種類ごとに確認します。
商標権
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で登録番号を検索し、登録商標の構成、指定商品・指定役務、権利者、存続期間を確認します。商標権は指定商品・指定役務について登録商標を使用する権利を専有するもので(商標法25条)、類似する商標・類似する商品役務への使用も侵害とみなされます(同法37条1号)。貴社の商品・サービスが指定商品役務と同一・類似か、貴社の標章が登録商標と類似するか、の2点が検討の中心です。
特許権
特許権は業として特許発明を実施する権利を専有するもので(特許法68条)、その技術的範囲は「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められ、明細書・図面を考慮して用語の意義を解釈します(同法70条1項・2項)。請求項を取得し、貴社製品がその構成要件をすべて満たすかを一つずつ照らし合わせます。争いがあれば特許庁に判定を求める制度もあります(同法71条)。
著作権
著作権は登録なしに創作の時点で発生するため、登録番号で確認できません。相手が主張する著作物が本当に相手の創作物か、創作性があるか、貴社の制作物がそれに依拠して作られたものか、類似の程度はどうかを確認します。外注先の納品物なら、制作経緯と契約内容の確認も不可欠です。
| 権利 | 権利の発生 | 確認手段 | 主な検討ポイント | 侵害の罪(法定刑) |
|---|---|---|---|---|
| 商標権 | 特許庁への登録 | J-PlatPatで登録番号を検索 | 指定商品役務との同一・類似、標章の類似、不使用の有無 | 10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、併科あり(商標法78条) |
| 特許権 | 特許庁への登録 | J-PlatPatで特許番号・請求項を確認 | 構成要件の充足、無効理由、先使用 | 10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、併科あり(特許法196条) |
| 著作権 | 創作時に自動発生 | 相手の創作経緯・公表資料を確認 | 著作物性、依拠性、類似性、権利者の確認 | 10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、併科あり(著作権法119条1項) |
なお、商標権・特許権の侵害には過失があったものと推定する規定があり(特許法103条、商標法39条による準用)、「知らなかった」だけでは損害賠償責任を免れにくい点に注意が必要です。
反論の組み立て方 ― 非侵害・無効・先使用・効力の制限
権利の確認が済んだら反論の柱を選びます。主な反論は次の4つで、組み合わせることもあります。
1. そもそも侵害に当たらない(非侵害)
商標なら、商品・役務が非類似である、標章の外観・称呼・観念が異なり類似しない、という主張です。特許なら、構成要件を一つでも満たさなければ原則として技術的範囲に属しません。著作権なら、相手の作品に依拠していないこと、アイデアや一般的な表現が共通するだけで創作的表現は共通しないことを示します。
2. 権利の効力が及ばない範囲である
商標法26条1項は、商品の普通名称・産地・品質などを普通に用いられる方法で表示する商標や、自己の氏名・名称を普通に用いられる方法で表示する商標などには商標権の効力が及ばないと定めています。「商品の説明として記載しているだけだ」という主張はここに属します。
3. 相手の権利に無効理由がある
登録された権利でも、無効理由があれば審判で無効にできます(商標法46条、特許法123条)。侵害訴訟の中でも、無効審判により無効にされるべきものと認められるときは権利行使が制限されます(特許法104条の3、商標法39条による準用)。商標の一部の無効理由は登録から5年で請求できなくなります(商標法47条)。
4. 先使用・不使用
特許では、出願時に発明の内容を知らずに自ら発明し、日本国内でその事業や準備をしていた者は、その範囲で通常実施権を持ちます(特許法79条)。商標についても、相手の出願前から貴社の標章が需要者の間に広く認識されていた場合に先使用権が認められる余地がありますが、周知性の立証のハードルは高めです。また、相手が登録商標を継続して3年以上日本国内で使用していない場合、誰でも登録の取消しを求める不使用取消審判を請求できます(商標法50条)。
反論の材料は「相手の登録内容」と「自社の使用資料」の両側にあります。弁理士・特許庁審査官出身の弁護士弁理士が在籍する当事務所では、登録の有効性と侵害の成否を同時に検討し、審判をどの段階で使うかまで含めて方針を立てています。
回答書の書き方と落としどころ
回答書は、将来の裁判所が読む可能性がある文書です。①事実(いつから使用しているか)と評価(侵害に当たらない)を分けて書く、②非侵害なら対比の内容、無効なら先行商標・先行技術、先使用なら使用開始時期の資料を添える、③一部の使用を自主的に見直す場合でも「侵害を認めたものではない」と明記する、④根拠のない侵害主張を取引先に告知する行為は不正競争防止法上の問題になりうると指摘して牽制する、の4点を意識します。
落としどころの選択肢
すべてを争うことが最善とは限りません。主な選択肢は、①使用を継続し相手の請求を拒否する、②ライセンス契約を結び対価を払って使用を続ける、③移行期間を設けて表示を変更する、④相手の権利を譲り受ける、の4つです。ライセンスを選ぶ場合は許諾範囲・対価・終了後の猶予期間を定め、侵害を認める文言は入れません。いずれも合意は書面にし、過去の使用について相手が請求を放棄する清算条項を入れます。損害賠償には、侵害者の利益額を損害と推定する規定や使用料相当額を請求できる規定(商標法38条2項・3項、特許法102条2項・3項、著作権法114条2項・3項)があるため、金額交渉の前に自社の売上・利益の資料を整理します。
逆に自社が警告書を送る場合の注意点
貴社の商標やデザインが模倣された場合、警告書は有効な手段ですが、送り方を誤ると貴社がリスクを負います。
- 権利の存在と範囲を確認する。自社の商標登録が対象の商品役務をカバーしているか、存続期間内か、相手の行為が類似の範囲にあるかを確認します。登録していない名称やロゴには商標権はなく、不正競争防止法など別の根拠を検討することになります。
- 相手の取引先に直接送らない。競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為は不正競争に該当し(不正競争防止法2条1項21号)、差止請求(同法3条)や損害賠償請求(同法4条)の対象になります。侵害が認められなかった場合、取引先への通知が「虚偽の事実の告知」と評価されるおそれがあるため、まずは相手本人に送るのが原則です。
- 請求内容を具体的にし、証拠を先に保全する。登録番号、侵害と考える行為、求める措置と回答期限を明記します。相手のWebページや商品の写真は警告後に削除されることがあるため、送付前に日付とともに保存します。
相手が応じない場合に差止・損害賠償請求へ進めるだけの裏付けを整えてから送ることが、早期解決につながります。
よくある質問(FAQ)
警告書の回答期限を過ぎてしまいましたが、不利になりますか
商標登録していない社名で営業していたら警告が来ました。すぐ変えるべきですか
特許侵害の警告書に「技術的範囲に属する」と書かれていますが、自社で判断できますか
外注先が作ったロゴについて著作権侵害の警告が届きました。責任は誰が負いますか
警告してきた相手が、その商標を使っていないようです。何かできますか
模倣品を売っている相手の取引先にも警告書を送りたいのですが、問題ありますか
まとめ
- 警告書は相手の主張にすぎません。初動は原本保全・対象の特定・使用状況の棚卸しに集中し、謝罪も無視もしないことが基本です。
- 回答期限は法律上の期限ではありませんが、期限内に「検討中」の通知か実質的な回答を書面で送ります。
- 相手の権利はJ-PlatPatで確認し、商標なら指定商品役務と標章の類似、特許なら請求項の構成要件の充足を検討します。
- 反論の柱は非侵害・効力の制限(商標法26条)・無効(商標法46条、特許法123条・104条の3)・先使用(特許法79条)・不使用取消(商標法50条)です。
- 自社が警告を送るときは権利の範囲を確認し、相手の取引先への直接通知は不正競争防止法2条1項21号のリスクを踏まえて慎重に判断します。
侵害警告書は、対応を誤ると商品名そのものを失うことにつながりますが、適切に対応すれば交渉で解決できるものが多くあります。警告書が届いたとき、模倣への対応を検討しているときは、お問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。商標・契約・取引先トラブルを日常的に相談できる体制を整えたい経営者には、顧問弁護士サービスもご案内しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
